死のうと思ったから猫を飼うことにした。

私は、田舎に生まれて田舎で育った。祖父母と母親と姉。父は幼い頃に離婚した。幼少期はよく母子家庭ということをコンプレックスに思ったものだった。

 

母親はそれに負い目を感じていたのか、一生懸命に家事から仕事と、2人の兄弟を育ててくれた。本当に私にはもったいないくらいの母親だと今更ながら思う。

 

そんな私はある3月11日、東日本大震災に被災した。たまたま、部活で学校にいた為助かった。母親も山奥の職場だった為無事であった。祖父母はなんとか近くの寺へ逃げ込んだ。

 

不幸中の幸いとはまさにこのことか。家屋は全壊。跡地には跡形もなく家の土台だけが残っていた。

 

学校では炊き出しが行われ生徒教員一丸となり頑張っていた。その頃避難してきた大人達は生徒の自転車を盗み、被災直後の街から金品目当てで空き巣や店のATM荒らしを始める。

 

まるで日本ではない。小説によくあるどこかの国を描写しているそれが目の前に広がっていた。

環境が変われば、今まで普通にしていた『日本人』だって平気で女性を犯し、誰もが見て見ぬふりをする。そこでは日本を忘れ、悪になったものが強く。利益を得る。それを恐れる小動物のような私たちは不幸にもまだ日本人であったのだろう。

 

 

それから数年たち、家族全員東京へ越した。私は東京の大学を卒業し会社員になった。

 

最初はいい職場だと思った。誰もが優しいと錯覚していた。人間の本性をマジマジと見ておいて、我ながら滑稽だ。

 

当然、上司は自分の地位を得る為にあらゆる人間を利用し、影で工作したストーリーを描こうとする。同期のみんなはそれを見て見ぬふりをする。巻き込まれたくないから。当然だ。私もそうするだろう。あの状況でさえ私は怯える日本人であったのだから。影で励ましてくれる人もたくさんいたが、私は誰も信用できなかった。結局それも『人』だから。

 

しばらくして、人事異動で職場が落ち着いてきた。そこで出会った上司は今までの人とは違っていた。誰もが彼女を見て変わり者だ。おかしい。と言った。

 

そんな上司を私は心から信頼していた。それはまさに私の知っていた震災前の『人』の姿であったからだ。

 

私には大学で知り合った恋人がいる。彼女もまた、少々周りからは変わり者と思われていたようだが、容姿や振る舞いの良さから同級生の中では人気があった。

 

私は一度、その恋人を振ったことがある。それから私は多くの人の心を傷つけた。本当に最低だと思う。私は善を装った悪である。そう確信したが後悔しても、改善しようとしてもその悪が私なのだから意味が無い。

 

恋人とは最近復縁して今もお付き合いさせてもらっている。本当に寛大な人だ。どうやら仏法を学んでいるらしい。私は宗教に疎いから、彼女に習い私も学んでいる。

 

正直、私は仏法を学びたい訳では無い。彼女に自分(悪)を認めて欲しく、そばから離さないで欲しいから仏法を学んでいるフリをしている。

 

心から信心できていない。多分、人の姿を知らなければきっとこんな、悪の中でも歪んだ悪にはならなかったのに。

 

私は悪なりに恋人を幸せにしたいと思っている。私は年収は普通。容姿も普通。なにも特徴がない。強いていえば中身が悪であることが特徴な私でもそう思える人がいるのだから不思議なものだとつくづく思う。

 

恋人を幸せにするには何が必要か。私は悪だからこう考えた。金だ。

恋人は絶対それを望まないと思う。いや、断言できる。金より大事なものがあると恋人は言うだろう。

 

だが、私は金をもとめた。結果外国為替取引に手を出し、失敗。100万円の負債を負った。

 

奨学金も返し終えていないのに、人を幸せにするために、望まぬ幸せのために、100万円の負債を負債を負ったのだ。

 

愚かとはきっと私のような人を見て作られた言葉だろう。

 

あの時、悪を見ていた小動物たちも今では仲間だった私を嘲笑うだろう。そんな私はいったいなんだ。

無であった方がいいことだってある。鏡を見るとそう思う。

 

 

私は、幸せを知らない。幸せの概念についてとやかくここで話すつもりはないが私の生涯を客観的に私が見て私には幸せがないから幸せを知らないのだ。

 

私は家族も、友人も、金も、環境も、何もかも得られない。そう思い込んでいる人間は他にもたくさんいるだろう。私もその1人だ。それに加えて私は悪なのだからもう救いようがない。

 

しかし、何も無い私には恋人だけが残っている。なぜだか分からない。私に恋人がいることは、何か宗教的な力が働いた聖なるものかと思う程に不思議で不確かなのである。

 

金も何もない私に残されたのは、いや、神様が残して下さった光は恋人なのかもしれない。

もう金に目の暗んだ愚かな真似はしまい。私の体で稼げるだけの金を稼いでそれに見合った生活を恋人に強いるしかない。恋人がこれを聞いたらきっと笑って頷くだろう。

 

だから、嫌になる。どうせならとことん苦しめて死なせてくれればいいのに、こんなにも確かに信じられる光の存在を与える意味を教えて欲しい。これは罰か、幸せか。

 

何も分からないから悪は悪として生まれたのだから悪なりに足掻こうと思う。

 

そして、今日。私は猫を飼った。